いきなりですが、公認会計士と税理士の違いを答えられますか?
税理士は町医者のように、小規模事務所で活動しているイメージを持っている方もおられるかもしれません。公認会計士は上場会社にお勤めの方には馴染みがあるかもしれませんね。
また、学生の方であれば、これから会計系の資格取得を考えていて、公認会計士と税理士のどちらを目指せば良いのか悩まれている方もいることでしょう。
(僕自身も公認会計士試験の勉強を始める前に悩みました)
この記事を読むことで、次のような内容を理解できるようになります。
- 公認会計士と税理士の使命、役目
- 試験制度の違い
- 仕事内容の違い
- 収入や働き方の違い
今後、公認会計士か税理士の資格取得を目指す方にとって、少しでも判断材料となれば幸いです。
公認会計士と税理士の主な仕事の違い
公認会計士の主な仕事は、会計監査です。
会計監査とは、主に上場会社の決算書が正しいかどうかについて、外部の専門家としてチェックする仕事です。
一方、税理士の主な仕事は、税務代理や税務相談です。
税務代理とは、個人事業主や、中小企業の税務申告書の作成を代理する仕事です。
中には、記帳代行(会社の決算書を作成する仕事)を請負う税理士も多く存在します。
公認会計士と税理士の主な客先(クライアント)の違い
公認会計士の仕事は、上場会社など、比較的規模の大きな会社がお客様となる場合が多いです。
公認会計士はその仕事柄、日本全国への出張、時には海外出張などもあり、旅好きやグローバルに活躍したい人にはオススメできる資格です。
僕自身も、大手監査法人で6年程度勤務していましたが、監査法人には海外志向の方も多く在籍している印象でした。監査法人は、グローバルアカウンティングファームに所属していることが多く、毎年、一定の人数が海外駐在に行っているのも監査法人の特徴です。
また、僕は(執筆時点では)、税理士としても仕事をしています。税理士の主な客先は、中小企業や個人(フリーランスや資産家など)です。
公認会計士と比べると、大企業や、多額な報酬を扱うことは減るかもしれません。
一方で、中小企業の経営者に最も近い相談役となれる「顧問業務」には、何にも変え難いやりがいを感じることができるでしょう。
公認会計士と税理士の使命の違い
公認会計士は「会計」と「監査」の専門家として日本経済の基盤を支える幅広い役割を果たしています。
公認会計士法という会計士が守るべき法律には、以下のように公認会計士の使命が書かれています。
公認会計士は、監査および会計の専門家として、独立した立場において、
財務書類、その他財務に関する情報の信頼性を確保することにより、
会社等の公正な事業活動、投資者および債権者の保護等を図り、
もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。
(公認会計士法第1条)
これは公認会計士試験を受験した方なら誰しもが勉強した内容であり、また、ほとんどの方は暗記されているかと思います。
一方で税理士の使命は、税理士法に以下のように書かれています。
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、 納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命としています。
(税理士法第1条)
税理士は、「暮らしの税金に関するスペシャリスト」としてのイメージを持たれている方も多いでしょう。
税務代理業務(税金の申告を納税者の代わりに行う仕事)であったり、税務相談業務(税金について相談窓口となる仕事)は税理士が行なっています。
よく勘違いされていますが、税理士は、あくまで「税務」の専門家であって、「税金」の専門家とは書かれていませんし、「節税」の専門家とも書かれていません。
「税務」とは、税務事務のことを指します(税理士登録研修の時に聞かされました)。
あくまで、本来は企業や個人事業主が作成責任を負う税金に関する書類の事務を代行することが主な仕事です。
ここでややこしいのが、公認会計士でも税理士業務をされている方が多数います。独立開業されている公認会計士であれば、多くの人が、
公認会計士 税理士 ○○ ○○
と名刺に書いています。
この記載がある人は公認会計士である一方で、税理士としても仕事をしています。
このあたりが、公認会計士と税理士の違いを複雑にしているのかもしれませんね。
(現行制度では、公認会計士や弁護士は登録申請をすることで税理士登録をすることが可能です。一方、税理士は公認会計士登録をすることはできません)
公認会計士は、企業を相手に仕事をしている方が多いので、日常生活ではあまり耳慣れない資格かもしれません。
公認会計士と税理士の試験制度の違い
公認会計士も税理士も、国家資格です。
そのため、国家試験に合格する必要があります。
ただし、受験資格には違いがあります。
受験資格に制限はなく、基本的に誰でも受験可能です。
大学で一定の科目を履修していること、または、日商簿記1級を取得している者、など、誰でも受験できるわけではありません。
また、試験内容についても、以下の違いがあります。
マークシート方式の一次試験に合格後、論文式の二次試験があります(その後、実務経験を積んだあとに「修了考査」と呼ばれる三次試験もあります)。
6科目(うち、1つは選択科目)について、原則として一括で合格する必要がありますので、広範囲を一気に勉強する必要があります。
11科目の税目があり、受験科目を選択できますが、そのうち、5科目に合格する必要があります。
ただし、一度に5科目合格する必要はありません。
試験内容を時間軸で捉えると、公認会計士は短期決戦、税理士は長期スパンで科目合格を狙いに行く勉強スタイルが主流です(今年は2科目勉強しよう、といった感じですね)。
学生は公認会計士試験に専念して短期決戦、社会人は1科目ずつ働きながら数年かけて勉強する、といった棲み分けも多少はあるように感じています。
よく、「どちらが難しいですか?」と聞かれますが、それに答えはありません(というより本当にわかりません)。
簡単に言えば、土俵が違います。
公認会計士受験生は、おそらく税理士試験の、「簿記論」「財務諸表論」は特段の対策なしに合格可能ですが、その他の税金科目は、対策なしに合格することは不可能でしょう。
税務に対する知識の求められる深さや幅広さが違います。
公認会計士が税理士業務をする場合には、ある程度税務の勉強をし直す必要があります(税理士試験の合格は必要ありませんが)。
一方、税理士受験生は、公認会計士試験の税金科目(法人税法、所得税法、消費税法)は難なく理解でき、高得点で合格できると思いますが、その他の科目は対策なしには太刀打ちできないでしょう。
同じような仕事をして、世間の印象も似たり寄ったりですが、実は同じ土俵で比べることができる試験ではないのも特徴的です。
なので、どちらが難しいとか、どちらが偉いとかいう問題ではなく、どちらが自分に合っているか?で受験を決める必要があるでしょう。
税理士業務がしたくて公認会計士になっても、税務の勉強はもう一度必要です(これは経験していますが、結構大変です)。
一方、税理士になっても公認会計士になることはできません。
公認会計士と税理士の独占業務の違い
独占業務とは、その資格がないとできない仕事のことを指します。
公認会計士と税理士の独占義務には、以下の違いがあります。
独占業務は監査業務です。東芝事件などもあり、ある程度有名にはなりました。会社の財務諸表が適正かどうかについて意見を出す仕事です。
独占業務は税務業務です。申告書作成、記帳代行、税務相談など。ちなみに、無料の税務相談であっても税理士しかしてはいけない独占義務(無償独占業務)です。
公認会計士と税理士は、どっちが稼げるの?
公認会計士と税理士のどちらが稼げるか?といえば、これも一概に答えはありません。
なぜなら、人によってまちまちだからです。
1つ言えるのは、組織に所属してサラリーマンのような働き方をするのであれば、公認会計士の方が相対的に年収が高いです(僕自身の経験談)。
目安とすれば、公認会計士は大手監査法人に勤務すれば初任給は500万円程度(残業代は別で月額30万円程度)はもらえるでしょう。2〜3年働くと、700万円程度の年収になります。
税理士の方は5科目一括合格する必要がないので、3科目程度合格したら「科目合格者」として働き始めている方も多いです。
初任給という意味では、公認会計士には届かない方がほとんどです(届いている方を私は1人も知りません)。
多くの税理士法人では、初任給は高くても500万円に届かないようです。
20代であれば公認会計士の方が稼いでいるイメージですが、これも最終的にどうなるかは人それぞれですのでなんとも言えません。開業税理士の先生は結構稼いでいると聞いたりもしますが。
独立開業をするハードルは、税理士の方が低いとも言われています(公認会計士は組織でとチームを組んで働くことが多いですが、税理士は属人化することも多いです)。
公認会計士も税理士も、実は、独立開業すれば税務業務をメインで活動する方が多いため実務面では、公認会計士が慣れるまで結構苦労しているようです。
サラリーマンとして法人勤務で限定すると、公認会計士の方が稼いでいると言う方が多いのではないでしょうか。
お客様から頂ける報酬が多い(お客様の組織規模が大きい)ので、必然的に公認会計士自身のポケットに入る金額も増えるイメージです。
【番外編】で、結局どっちが偉いの?
この質問、実は良く受験生(学生)や、勉強を検討中の人に聞かれます。
まず初めに断っておくと、この手の質問をする前に「なぜこの資格を目指すのか?」を真剣に考える必要があるかもしれません(資格はあくまで手段であって、目的にしてしまうと不幸になりやすいです)。
結論から言えば、戦う土俵が違う以上、どちらが偉いというのはありません。
「お客様に直接役に立てている実感」を持ちやすいのは税理士です。
ただし、「どちらが偉いか?」で資格を決めるぐらいならやめておいた方が無難です。
資格は取得するのが目的ではありません。
なぜこの資格が必要なのか?資格を取得してからどう活かすのか?自分のビジョンはどこにあるのか?など、改めて根本的な問いを考えてみましょう。
公認会計士と税理士がどちらが偉いというのはありませんが、両業界で若干しがらみがあるのも事実です。(一時期、会計士が税理士登録をできるのはおかしい!という反発も税理士業界から言われていたようですが、一旦落ち着いたようです。)
会計士か税理士かどちらにしようか迷っている方に、1つだけ判断材料を与えられるとすれば(あくまで私見ですが)、
グローバル企業を相手に経営を会計の視点から見てみたいと思える方は公認会計士を目指すことが近道かもしれません。
中小企業の経営者に感謝されながら、経営者の片腕となって税金や経営を一緒に考えていきたいと思う方は税理士が向いているかもしれません。
少なくとも上場会社は、公認会計士による監査が義務付けられていますので、公認会計士であればグローバル企業と関わるチャンスは大きいです。
あなたは、どちらの資格に魅力を感じましたか?
会計士と税理士について、もっと詳しく知りたい方は業界の公式サイトのリンクを載せておきますので、参考にしてみてください。