相続税申告を自分ですれば、かなりの費用削減になりますが果たして自分で相続税申告はできるものでしょうか?
結論から言えば、可能です。
しかしながら、税理士に依頼した方が良いケースももちろんありますので、このあたりのお話をしようと思います。
ぼくは普段、税理士として相続税の申告業務にも携わっています。
相続税の申告は、所得税の確定申告と違って、ほとんどの人が税理士に依頼します。
税理士に依頼する理由のほとんどが以下の内容に集約されます。
- 一生に一度程度しか経験しない
- 所得税の確定申告と違って難しい
- 税理士でも扱えない人が多い専門性
- 手間と時間がかかる
- 税務調査が入る確率が他の税目(所得、法人)より高い
- 富裕層は時間を大切にしている傾向にある
- 自分で申告するのは不安
相続税は実は結構専門性が高くて、税理士でも敬遠する人がいるのですが、自分で申告をすることは可能なのか?と思う人もいるでしょう。
今回は、この点について税理士からの意見と、実際に自分でする方の参考になる情報を書いてみようと思います。
相続税申告の基本
相続税申告は、亡くなった方(被相続人)の、相続開始日(基本的には亡くなった日)の遺産が一定額を超えると必要になります。
つまり、相続が起きたら全員が申告が必要なわけではなくて、一定額以上の財産を持っていた人が亡くなった場合に支払わないといけない税金が「相続税」です。
この「一定額」というのが、基礎控除額(きそこうじょがく)と呼ばれており、以下の計算式で求めます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、4人家族(父、母、長男、長女)でお父さんが亡くなった場合、法定相続人は、3人(母、長男、長女)となります。
この例の家族にあてはめると、基礎控除額は4,800万円です。
つまり、このお父さんが亡くなった場合、お父さんの遺産が4,800万円を超えていたら相続税の申告と税金の支払いが必要になるのです。
相続税がかかる人とは?といった記事も書いているので参考に読んでみてください。
相続税申告の期限は?
相続税申告の期限は、相続開始日(≒亡くなった日)から10ヵ月以内です。
例えば、2021年2月17日(水)に相続が起きた場合、10ヵ月後の2021年12月17日(金)までに相続税の申告書を税務署に提出し、税金を払い終える必要があります。
相続税申告手続きの流れ
ここから相続税手続きの流れを説明していきます。
まず、さきほどのステップで相続税の申告が必要(基礎控除額を超える)と判断した方は、さっそく必要な書類を準備していきましょう。
まず必要なことは、必要書類の収集と相続財産の洗い出しです。
①必要書類の収集(基礎書類)
必要書類を以下にまとめておきます(相続財産に関連するもの以外)。
必要書類 | 取得方法ほか |
相続税の申告書様式 | 税務署の窓口で入手するか、国税庁ホームページからダウンロードします。 |
亡くなった前年の確定申告書類 | 亡くなった年に確定申告が必要な方は、亡くなってから4ヵ月以内に「準確定申告」が必要になります。 |
相続人全員のマイナンバー | 以下のいずれかの書類が本人確認書類として必要です。 ①マイナンバーカードの両面コピー ②通知カードのコピー+身分証明書(運転免許証等)のコピー |
戸籍謄本 | 本籍地の市町村役場で取得します。 被相続人:出生から死亡までの連続戸籍すべて 相続人:最新の戸籍 ※これらを確認することで相続人を確定させます。 |
戸籍の附票(又は住民票の除票) | 本籍地の市町村役場で取得します。 被相続人:戸籍の除附票(または除住民票) 相続人:戸籍の附票(または住民票) ※亡くなる最後の住所や住所の移転状況がわかります(戸籍に住所の記載はありません) |
遺言書または遺産分割協議書 | 遺言書がある場合はコピーを添付 ない場合は、遺産分割協議書を相続人全員で作成 |
相続人全員の印鑑証明書 | 住所地の市町村役場で取得します。 遺産分割協議書を作成する場合には、実印を押印するので、印鑑証明書(原本)の提出も必要になります。 |
これらの書類は財産内容に関わらず、全員集めておきましょう。
書類を集めたら、まずは戸籍謄本を確認して、法定相続人を確定させます。
多くの場合は、戸籍謄本をとらなくても家族関係を把握しているので相続人はなんとなくわかると思います。が、税務署に申告書を提出する場合には、その根拠資料として添付が必要になります。
②必要書類の収集(遺産関係の書類)
①で基礎書類を集めたら、実際に財産内容を洗い出して書類を準備します。
財産内容の洗い出しについては、預金通帳はもちろんのこと、不動産や株式、生命保険など、お金になるようなものはすべて集めます。
多くの方に必要となるものは以下の書類です。
分類 | 必要書類 | 取得方法ほか |
土地 | 固定資産税納税通知書 不動産登記簿(全部事項証明書) 路線価図 公図 地積測量図 住宅地図 賃貸借契約書 |
路線価図は国税庁のホームページからダウンロードできます。 登記簿・公図・測量図等は法務局で入手できます。 土地を収益物件として貸している場合には、賃貸借契約書も準備しましょう。 |
建物 | 固定資産税納税通知書 不動産登記簿(全部事項証明書) 賃貸借契約書 |
同上 |
預貯金 | 残高証明書 | 取引のある金融機関に連絡をして発行してもらいましょう(相続開始日時点の残高) |
上場株式 | 残高証明書 | 同上 |
投資信託・公社債 | 残高証明書 | 同上 |
生命保険金 | 保険証券 支払通知書 解約返戻金評価証明書 |
死亡保険金を請求し入金されるタイミングで支払通知書が発行されます。その資料を元に受取保険金の金額を確認しましょう。 既存契約の場合、解約返戻金の評価証明書が必要になる場合があります。 |
相続後の還付金 | 役所からの還付金ほか | 相続後に、被相続人の医療費や社会保険料等の還付が行われる場合があります。その還付金も相続財産となります。 |
生前贈与財産 | 贈与税申告書等 | 過去3年間に行われた贈与は相続財産として足し戻しが必要となります。 |
債務 | 領収書等 | 相続開始日時点で未払のものは、債務控除ができます。 |
葬式費用 | 領収書等 | 葬儀当日の葬式費用については、相続財産から控除できます。お布施はメモ書きを残しておきましょう。 |
多くの方がこのような書類を集める必要があります。
結構手間がかかりますので、行政書士や司法書士の先生が代行するサービスもあります。
財産内容を把握した上で、必要書類を収集し、実際に財産の評価額を計算していきます。
この計算方法は少し専門的な部分になるので、割愛しますが、国税庁のホームページや専門家のブログなどを参考に計算を進めていくのが良いでしょう。
専門家に絶対依頼すべき人は?
ここまで説明した内容でも「ちょっとしんどそうだな」と感じた人は多いと思います。
実際に相続税の申告をする際に、自分で申告しても大丈夫そうな人と絶対専門家を利用した方が良い人がいます。
専門家(税理士)に絶対に依頼した方が良い人は、以下に当てはまる人です。
- 財産額が1億円を超えている
- 自宅以外に不動産を所有している
- 商売をしていて非上場会社の株式を持っている
- 特例を利用して少しでも相続税を減らしたい
- 二次相続の対策も行う必要がある
- 税務署の対応を直接したくない
財産額が1億円を超えると少しのミスで税額が大きく変わる可能性があるので税理士を利用した方が無難です。
また、自宅以外の不動産を所有している場合や、賃貸不動産を所有している場合も税理士にお願いするべきでしょう。
ほかにも、非上場株式を所有している場合や、少しでも納税額を減らしたいと考える人は税理士に相談してみることをおすすめします。
頑張れば自分で申告しても大丈夫な人は?
それでは、逆に自分で相続税申告(セルフ申告)をしても問題ない人はどういった人になるでしょうか。
例えば、こんなケースであれば自分で申告しても大きなミスは起きにくいです。
- 相続人が1人だけ
- 財産額が5,000万円程度で不動産なし
- 財産内容が預金と上場株式程度
- 不動産は自宅だけで税金は多少高くなっても構わない
少し限定的にはなりますが、このようなケースに当てはまる方であれば自分で相続税申告をするのにチャレンジしてみても良いかもしれません。税理士に払う費用分は節約できますので。
相続税申告書の書き方は?
資料がそろって財産調査と評価(計算)ができれば、次に相続税申告書を作成します。
自分で申告する場合は、「相続税の申告のしかた」が税務署から公表されていますので、こちらを参考にしましょう(こちらのリンクは令和2年分を掲載しています)。
税務署から公表されているものなので、この通りに作成できれば大きく間違えることはないでしょう。
この手引きに沿って相続税申告書を作成できれば、税務署(※)に相続税申告書と準備した書類を持って提出にいきましょう。そのとき、納税も忘れずに!(相続税は、現金一括納付が原則です)
(※)被相続人が最後に住んでいた住所地が、提出する管轄の税務署です。わからない方は、「●●市 税務署」とGoogleで検索してみてください。すぐに見つかります。
相続税申告はしないとバレるのか?
相続税申告のお仕事をしていると、よく聞かれるのがこれです。
「相続税申告をしないとバレますか?」
申告をしないとバレると思っていてください。というのも、税務署の調査権限は私たちの想像を超えています。
例えば、過去の預金の動きを調査することもできますし、金融機関と連携して財産内容を把握することができるのです。
また、申告をすべきとわかっていたのにしなかった場合には、罰則もありますので必要な方はしっかり申告しておきましょう。
相続税は税務調査が入りやすい?
相続税は一般的に税務調査の可能性が他の税金よりも高いと言われています。
これはシンプルに考えると当然のことです。相続税は、財産に対して課税される税金なので納税額も大きくなる傾向にあります。
つまり、税務署側(国側)の目線からすれば、小さい金額の所得税確定申告を調査するよりも、資産家の相続税の調査を行った方が税収が増える可能性が高いですよね。
少しでも迷ったら、まずは税理士に相談!
相続税について迷ったら、まずは税理士に相談しましょう。
特に相続税に関しては、専門性の高い税目です。少しでも安心いただくためにも、相続税に慣れた税理士に依頼することをおすすめします。
私も相続税の申告業務を行っていますので、なにか疑問点や申告のご依頼などあれば、お気軽にお問合せフォームよりご連絡ください!(オンライン対応でもよければ、全国対応可能です)
事務所のホームページのリンクも貼っておきますね。
相続の申告なら、さすてな経営会計事務所へ。